さよなら虎馬、ハートブレイク
(……不純だ)
「隙あり」
「っ!」
二階を見上げた瞬間、完全に油断した。私の後ろにいたはずの選手が突如私の前に出ると、慣れた動作でチームメイトからパスを受け取る。そしてそのままドリブルし、パシュッ、といい音を立てて華麗なレイアップシュートを決めた。
色白の黒髪ボーイッシュ、4のビブスを着た彼女は私を見て挑発的に笑いながらべえっと舌を出す。…かっこいい、じゃない! しまった!
「あいつ、ポイントゲッター」
すれ違いざまに言ってきたのは草薙さんだ。そして「1年でもレギュラーのリサを食うほどのやり手だよ」と続ける。
「寝てんなら外れて、邪魔」
「…起きてる」
申し訳程度に頭を下げ、試合が再開される。
相手チームの1-Dは、条件的には此方と似て4人の現役女バス部員と、1人のバレー部で構成されているとのことだった。が、どれが1人だけバスケ部でないのかわからないくらいチーム全員の動きに無駄がなく、ファインプレーが多く見られる。
それは、決勝戦に勝ち進むまでは力を抜き気味で試合に挑んでいたA組の女バス部員たちを翻弄させるには十分すぎるほどで。
そして彼女たちの足を引っ張っているのは───紛れもなく、私だった。
「ヤバいよ23対18…A組、負けちゃってる」
「てか接戦マジ高まるんだけど! リサとミヤビかっこいい」
「ミヤビ───っ!」
反対コートで行われていた男子バレーボール部の決勝も終わったらしく、観客が更に溢れてきて、相手チームの応援も増えてきた。
相変わらずボールに触れることすら出来ていない私は、正直彼女たちに付いて行くだけで精一杯だ。チームの作戦だとバスケ部4人が攻撃に回り、私の役目は守備を固めること。でも長期戦になるとその作戦にも限界が来るし、事実それが点差となって表れ始めている。
このままだと恐らく私たちは、負ける。…私のせいで。
「作戦を変更する」
後半戦直前、突如告げたのは、草薙さんだ。すれ違いざま肩に手を置かれ、そっと耳打ちされる。
「頼むからやって」
私の返答を待たずコートを抜けていくナツを目で追ったあと、私は自分の手のひらを見つめた。
「───ミヤ、」
後半戦、A組が怒濤の快進撃を見せる。序盤と大して変わらないペースで攻める黒髪のポイントゲッター、ミヤビの動きを封じるのは、仲谷さんだ。開始早々1点を決めた彼女は、鋭い眼差しで相手の動きを読み合い、しかし笑顔を浮かべたミヤビは仲谷さんを抜ける。
その直後だ。待機していた草薙さんがディフェンスを抜いてミヤビのボールをさらりと掠め取り、シュートを決める。
その度に歓声の湧く場内。私の鼓動がばくばくと拍動する。点差は残り3点。──────ラスト数十秒しか時間はない。