さよなら虎馬、ハートブレイク
「小津!!」
不意、だった。投げかけられた言葉に振り向くと、今日初めて自分にボールが跳んできた。体で受け止める。
“──────あんたの練習の成果、見せてよ”
あのとき。そう耳打ちした草薙さんの言葉と、パスを繰り出した彼女の視線が重なる。急がなきゃ。違う。落ち着いて。
脇を締め、足はゴールに対してまっすぐ…あとは。
力を抜いて。
ガン、とゴールに響く鈍い音。誰もが終わったと思った瞬間、ボールは。私が投げたボールは、ぐるぐるとリングのふちを回り、
ぱす、と。ネットを、くぐり抜けた。
「…………………入 っ、た」
てんてん、と転がるボールを全員が茫然と見て、…私も、自分の足元を見て腰が砕けそうになる。
─────────スリーポイントライン、だ。
《───ただいまの試合、23対24で、1-Aの勝利です。1年女子バスケットボール、優勝は1-Aです!》
ワァアッと場内が湧くのと同時にチームメイトが飛び付いてきて、私は一気にもみくちゃにされる。
「すごいよ小津さん! スリーポイントラインからなんて、そこまで練習してたの!?」
「…いやあれはマグレで」
「もうっ! やれば出来んじゃん!」
抱きついてくる女子たちに虫の息になりながら、視界の端で突っ立ったままの草薙さんが見える。彼女は私に一瞥をくれると、少しだけ笑って素っ気なく背を向けた。
「オーズちゃん」
試合が終わり、場内は祝杯ムードで賑わっている。
そのまま体育館で行われる球技大会の表彰式を待つ間、その声に振り向けば先輩がいつもの笑顔で歩いてきた。
「み、───見ましたかっ!? す、スリーポイント! 奇跡!」
「うん見てた。よく頑張ったな」
かっこよかったよ、って柔らかく微笑まれて、ふふん、とちょっとだけ得意げになる。腕組みをしてマグレのくせしてそうでしょうって笑ってから、でも、ふと先輩を見上げた。
ちがう。ちゃんと言わなきゃいけないんだ。私、ちゃんと。先輩に。
「………あ、の先輩」
「んー?」
「…あ、…ぁ、ぁり …」
後ろで手を組んで、しどろもどろ、と視線を散らす。もじもじ体を捩って言葉を濁してるその時の私は、周りから見たら単に先輩にドキドキしてる女子生徒の一人に見えたかもしれない。でもそういうんじゃなくて。