さよなら虎馬、ハートブレイク
ぱたぱたと体育館の片隅まで走ったかと思うと、あったー! と声を上げる。いちいち一つ一つの仕草が、可愛らしい。タオルを首に下げて走ってくる彼女は、頭の高い位置で結った髪を左右に揺らしている。その可愛らしさに思わず頬を染めていると、私が持っているボールをすいっと取られた。
「片付け手伝うよ」
「え、でも」
「いーのいーの。ついで!」
またしてもにこっと笑う常葉さんに、きゅん、と胸が鳴る。
…男のひとってこんな感じで女の子にときめくのかな、なんて。そんなことを考えていたらさっさとボールを片付けた彼女が私に振り向いた。
「ね、小津さんて下の名前凛花っていうんだよね」
「え、あ、うんそうだけど」
「じゃあさ、凛花ちゃんって呼んでいい? 私も柚寧でいいからさ」
「え」
「だめ?」
極め付けに突然の上目遣い。それまでで既にきゅんきゅんしていた私が、何故彼女のお願いを拒めようか。だからせめてこくこくと首を縦に振ると、彼女───柚寧ちゃんは、またおひさまみたいにぱあっと笑った。
「ありがとう! よろしくね、凛花ちゃん」