さよなら虎馬、ハートブレイク
同時に、さっきの件で気づいてしまったことがある。
自分の愚かさ。弱さ。浅はかさ。
人に言われて、そうですねって乗じた結果が招くこと。
自分が思うより心がずっと後退りしてること。
…本当は何もかもまだ怖いんだ。手を取ることも、誰かを信じることそのものも。
柚寧ちゃんが下の名前で呼んでくれるのだって、ひょっとしたら嘘なんじゃないかって思う。嘘で、からかわれていて、優しくしてくれるのも全部。それで失って絶望するくらいなら一人でいる方がずっとずっと楽だ。どっちにしろ自分が傷つかないために防衛を選ぶこと、それは逃げになるのだろうか。
なんで私はこんなに弱いんだ。
誰かの優しさを素直に受け取ることができないくらい、ひねくれてしまったんだ。
これはトラウマのせいじゃない。
(全部私が弱いせい)
ごん、と机に額をぶつけて、ごん、ごん、と何回か自虐する。
そのままずるりと顔を横にすると、目の前に柚寧ちゃんの目があった。
「っ!?」
「あっ…?! ご、ごめん。話しかけていいタイミングわかんなくて」
頭ごんごんしてたから、と心配そうに覗き込まれてカーッと顔が熱くなる。やだ待って。しっかり見られてるじゃんか。それなら話しかけてほしかった!
あんなことがあった手前どんな顔していいかもわからずに、複雑な面持ちで起き上がって前髪を直す。そうすれば柚寧ちゃんもそれにならって立ち上がった。
「ごめんね、さっき。わたし自分のことばっかりで、凛花ちゃんの気持ち考えてなかった」
「、」
「だから今度は、丸腰」
ぱ、と両手を広げた様子を見るに、周りで机をひっつけたりしてお弁当をつつく女子たちに、柚寧ちゃんのグループは見当たらない。
「凛花ちゃんが本当に嫌なら必要以上に絡んだりしないよ。教室で話しかけるのもなしにする。わたし凛花ちゃんの気持ちが聞きたい」
「…」
「話しかけられるの、嫌?」
「…嫌じゃ、ない」
「ほんと?」
大きな目で小首を傾げられて、こくこくと頷く。いちいち可愛いなあ、じゃなくて。一度口を開いて閉じ、もう一度口を開く。
「…私の方こそ、いや、私が、逃げてごめん。
せっかく誘ってくれたのに、あんな言い方するなんて…最低だった」