さよなら虎馬、ハートブレイク
「どうしたの?」
「見て、あそこ」
彼女が指差す方向に目をやると、食堂のおばちゃんと和気藹々と喋っている、
もう何度と見慣れたチャラ男の姿があった。
「藤堂先輩」
「おっオズちゃ〜ん。そろそろ会いたいと思ってた」
「私は皆目思ってませんでした」
「またまた。安定の塩対お…」
いつもの笑顔が私、そして隣の柚寧ちゃんを見たかと思うと二度見した。そしてすぐさまちょいちょい、と人差し指で私だけを呼び出し、ずいっと身を寄せ小声を出すため手の甲を頰に置く。
「誰あれ何あれ超可愛い」
「自分の胸に手を当てれば思い出しそうなもんですが」
「ごめん思い当たる節ありすぎて全然顔が出てこない」
「そうですか、やっぱり男の中のクズですね」
あなたに期待した私がバカだった、と柚寧ちゃんの元に戻ろうとするも、まてまてまて、と手で制されて後退る。油断すると触ってきそうだから困るんだこの男は!
「先輩にタオル貸した子ですよ。言い付け通り、球技大会の日に私がタオル返したら奇跡的にお近付きになれたんです」
「でかしたオズちゃん!!」
「声でかい!」
自分のことのように歓喜して、彼はくるりと柚寧ちゃんに向き直った。
「どうもはじめまして藤堂真澄です。うちの凛花がいつもお世話になっております」
「やめてください語弊が生じる表現はしかもあんた二度目ましてだろ」
「こーんな可愛い子ならタオル俺が返せばよかったくっそー」
「口説くな寄るな! 柚寧ちゃん早く逃げてこのひと歩くメンヘラ製造機だから!」
「はい藤堂くん生姜焼き定食っ♡ 今日もイケメンだから生姜焼き一枚追加しといたからね♡」
「あざすおばちゃん愛してる」
しかも見境いなしかよ。
柚寧ちゃんに絡んだ次の瞬間には素早く食堂のおばちゃんに愛想を振りまく調子のいい先輩に、私は盛大に舌打ちをした。
☁︎
「今日は智也先輩いないんですね」
「おん。なんか風紀委員で呼び出し食らってたね」
お弁当の包みを開きながら問いかけると、向かいに座る先輩は生姜焼きを口に運びながら言う。
結局さっきの流れで、私と柚寧ちゃんと先輩という異色のメンバーでお昼を食べることになった。今までの昼食は中庭に私が一人でいるところに先輩が入ってきてたりしていたから、こんなパターンは初めてだ。