さよなら虎馬、ハートブレイク

きみが生まれた日

  

《6月12日火曜日、お目覚めテレビ、続いてはお天気のコーナーです! 愛ちゃーん!》

《はーい、こちらTV局前からお伝えしています!

 今日は全国的に雨雲に覆われ、スッキリしない天気が続くでしょう。関東を中心に夕方から雷雨が予想されます。これから学校、お仕事へ行かれる皆さん。今は降っていなくても、必ず大きめの傘を持ってお出掛けしてください!

 続いてはラッキー星座占い☆》



 翌日、午前7時55分。

 私は腰に手を当てると、牛乳の入ったコップをグイッと飲み干した。

 

「いってきまーす」

「あ、凛花待って!」

 薄型テレビの中で笑顔を振りまいている無駄に可愛い気象予報士を見届けて、廊下に飛び出す。

 そこで私を呼び止めたのは、お母さんだ。振り向く私に、お母さんはエプロンで濡れた手を拭きながらにこにこ笑顔で問いかけてくる。

「今晩何が食べたい?」

「? (さば)の味噌煮」

「…え、鯖の味噌煮?」

 ほんとに? と怪訝な顔で覗き込まれて、え、と口籠る。なに。だってふと頭に浮かんだのが鯖の味噌煮だったんだもん。美味しいじゃん青魚、私大好きだけどダメなのか、だったら別になんでもいい。

 複雑な顔で見上げる私に、お母さんは呆れたようにため息をつく。


「…やだもう、今日がなんの日か本当に覚えてないの?」

「なんの日?」

「もーっ。ハイハイ、もういいわよ、帰ってきたら思い出せるようにちゃんと準備しとくから」


 え、今日なんかの記念日だったっけ、結婚記念日とかかな、とか考えているとお母さんはごし、と私の口の上についた牛乳を飲んだあとを拭った。

「仮にも女の子なんだから、身だしなみくらいちゃんとしなさい」

「はーい。いってきます」

「あ、ちょっと。傘は持ったの?」

「あるよ折りたたみ」

「夕方から雷雨って言ってたでしょ? 大きい方持って行きなさい」

「えーかさばるし…雨が降る前に帰ってくるよ」

「母親の言うことは絶対! それにたまには友だちと寄り道でもしてらっしゃいよ、学校終わるなり毎日毎日すぐ帰ってきてお母さん悲」

「いってきま──────す」


《今日最も良い運勢なのは双子座のあなた!

 思いがけない人からのサプライズがありそう! 勇気を出して、素直に気持ちを伝えてみましょう!

 ラッキーポイントは傘!》


 お母さんの声を思いっきり遮って外に飛び出せば、その後リビングから届いたお目覚めテレビの占いがやけに鮮明に耳に流れ込んできた。


< 99 / 385 >

この作品をシェア

pagetop