【完】淡い雪 キミと僕と
雪と一緒に眠る夜は、星も月も顔を覗かせないような暗い夜でも、心にポッと灯りが灯るような明るさがあった。
ひとりでリビングに置いて、不慮の事故にでもあったら困る。その呼吸を止めてしまったら、西城さんに怒られる。それだけじゃあなくて、わたしは泣いてしまうかもしれない。
たかが数日一緒に過ごしただけでこうまで情が沸くものなのか。
ベッドの半分以上は雪の場所してあけて置いた。
小さな段ボールの中で雪は眠る。睡眠は深い方で、一度眠ってしまったら朝まで起きないタイプだったけど、雪にミルクをあげなくてはいけないから夜中にでもアラームをセットして無理やり起きた。
ミルクをあげるたびに’早く大きくなれ’と心の中、呪文のように唱えていた。
早く大きくなって、西城さんの所に行くか、誰か優しい人に保護してもらうか、最初はそんな事ばかり考えていたのに
今は違う。
小さく頼りなくて、いつ死んでしまってもおかしくないような儚い命。
生きて、生きて、頑張って生きて。そして大きくなって、今よりもっと元気になって、そして愛らしい仕草をわたしに沢山見せてよ。
ミルクを沢山飲んで、いつか井上さんが飼っている琴音猫のような生意気な猫になっても構わない。
だから、わたしと生きて――
「わたし、猫は嫌いなんだけど」
夜中に猫にミルクをやり、独り言。かなり痛い女だ。
けれど、わたしが何か言葉を発するたびに雪は反応してくれて、まるでお喋りをしてくれているようなのだ。
「アンタの事は嫌いじゃないわ」
きっと西城さんの事も、嫌いではない。
世界で1番苦手で関わりたくはない男なのは確かなのだけど、あの人はわたしの痛みに敏感に反応してくれて、優しい言葉を探してくれるような人だもの。
弱々しくみすぼらしい猫を放ってはおけない人だもの。優しいのはわたしじゃなくて、あなたの方だったのだから。