【完】淡い雪 キミと僕と
4.大輝『アンタは優しい人間だ』
4.大輝『アンタは優しい人間だ』
日曜日は父について回り大阪まで出張。とはいえ日帰りなんだが。
朝から行って、夜に帰って来る。さすがに疲れる。時間に自由がきくのが社長業の良いところだろうが、土日も決まった休みというものはない。
だから平日の昼間っから雪の面倒が見れたりもするのだが。
帰って来てから久しぶりに自宅に戻ってきた。
成功者のみが住める、タワーマンション最上階。
身長よりもずっと高い窓からは、数え切れぬ高層ビルが立ち並び、煌々とオレンジの光りを放つ東京タワーが遠くに見える。
大都会の夜景の光りを高い所から悠々自適に見れるのは、成功者の証のひとつ。どこまでも果てなく続く光りにたまに目が眩む。
選ばれしものだけが見れるこの光りは、眩しすぎて、時々足元がぐらぐらと揺れる。 望まぬ光り。
星を映さない明るすぎる東京の空が、時たま耐えようもない程の切なさだと感じる事もある。
手を付けた窓ガラスはひんやりと冷たい。サッとカーテンを閉めた。
全てを手に入れた成功者。それはどれ程の孤独と隣り合わせだったろう。
月曜日、美麗の家に向かおうと車を走らせている時だった。
先ほど『今から向かう』とメッセージを送ったばかりだと言うのに、携帯の着信音がけたたましく鳴り響いた。
もしもし、と言う前に耳をつんざくような美麗の声が鼓膜をびりびりと揺らす。