【完】淡い雪 キミと僕と
ぐしゃぐしゃの泣き顔。悲しみにくれ、嗚咽を漏らしながら、雪、雪、と何度も叫ぶ。
段ボールの中、花柄の小さなタオルケットに包まる雪は、苦しそうにゼエゼエと小さく息を漏らす。
触れると、じんわり温かい。小さくとも、生きている。こちらに向けた眼差しにいつもの元気はなく、それでも何かを訴えるがごとく強い瞳を向けるんだ。
’生きる。生きる 生きたいんだ’と言っているように俺には聴こえた。
「うぅ…ヒック、雪…ゆきぃ…ウッ、ヒック…」
顔を真っ青にして、むせび泣く女の方がよっぽど死んでしまいそうだった。
笑ったように静かに泣く女が、なりふり構わずに泣き散らかしていた。
だからなのか。
この間出しかけ引っ込めた右手を、ごくごく自然に伸ばしていた。
華奢で壊れてしまいそうなくらい細い体からは、花のような柔らかい香りがふと香った。
「アンタのせいでは決してない。だから少し落ち着け。
雪は死なない。動物病院に連れて行こう。大丈夫だ、きっと。こいつは強い」
抱きしめた美麗の体は、雪と同じじんわり温かい。
俺の胸の中で、少しは落ち着いたのか、深く深く深呼吸をした。