【完】淡い雪 キミと僕と
風邪をひいてしまいまして。そう言って電話をした美麗はその日会社を休んだ。
俺が動物病院に連れて行くから、と言っても’わたしも行く!’と聞かなかった。
病院に連れて行くまで、彼女は雪の側から片時も離れずに、そして泣き続けた。
病院が開く30分前に家を出て車に乗っても、真新しい猫用のキャリーバックは、雪が来た時俺が買っておいたもの。大きすぎるキャリーバックに対して、小さな雪の体は余りにも頼りなさすぎる。
美麗はそれを両手で大切そうに抱えて、未だに目を真っ赤にしている。
黒く、分厚く雲が重なった空から、ぽつりぽつりと車の窓に横殴りの雨が掛かる。
今日は大雨になってしまう。美麗の涙と同じように。
何度払っても払っても視界を曇らせてしまう雨粒にも、耳をつんざくような雨音に苛々しながら、強くアクセルを踏み込んだ。
――死んでしまうのだろうか。
考えたくもない事。
ハンドルを握りながら、雪が死ぬかもしれないのに、過去の事を思い返していた。
クソッ、何でこんな時に…。猫用のキャリーを大切そうに抱える彼女に、あの子を重ねてしまうなんて。