【完】淡い雪 キミと僕と
「嫌ッ!」
美麗がまるで子供のように叫んだ。そして再びぽろぽろと涙をこぼすのだ。
「養子にあげるなんて絶対に嫌ッ。雪はうちの子だもんッ。そんなの絶対に嫌だよぉ~…
雪と一緒にいたいよぉ~…暮らしたいよぉ~…」
美麗の必死の懇願に、奥さんは柔らかい笑顔を浮かべ、再び彼女を支えるように背中を撫でて、まるで子供に言い聞かせるように言った。
「わたしたちが言ったのはそういう意味ではなく、このままだと雪ちゃんは何日入院になるか分からない状態なの。
だから建前上、家の猫として養子として引き取って、様子を見て、元気になったら、あなたたちにお返しするっていう事なの」
「元気になったら、返してくれるの?」
「勿論よ。それに雪ちゃんもこんなに泣いてまで想ってもらえる飼い主さんに出会えて幸せだもの」
あぁ…そういう事か。
今の話を聞いて、やっと腑に落ちた。
大混乱している美麗に理解出来たかは分かっちゃいないが。
つまりは、だ。
入院するという事は、入院費、治療費、などの雑費が掛かる。動物病院の入院費がどれほどの金額かは俺には分からないが
この人たちは、建前上養子という言葉を使い、雪の入院中の治療費を免除したいと遠回しに言っているのだ。
儲け主義の病院ならば、絶対に言えない言葉だ。そういう優しさがあるのを知った。少しだけこの病院の評判が良いのが理解出来た。
雪の為ならば、幾らでも惜しくないと思った。
美麗の涙が流れないのならば、どれだけの金額だろうが出そうとは思った。
お金で何とかしようとした自分を、本当の優しさを持つ人間の前で恥じた。