【完】淡い雪 キミと僕と
5.美麗『アンタが泣かないから、代わりに泣いてるのよ』

5.美麗『アンタが泣かないから、代わりに泣いてるのよ』




入院は2週間にも及んだ。

その間雪が心配すぎて、何かあったら直ぐに携帯に連絡が来ると言っていたので、仕事中であろうと携帯は手放さなかった。

’何かあったら’というのは雪の命に関わる事の意味だ。出来る事であるのならば、何事もなく、時間が過ぎて、雪が元気になる事を祈るしか出来ないのだが。


迷惑になるかな、と病院に行くのは躊躇った。それでも迷惑にならない程度に会いに行った。

初めは動物病院のゲージの中に入れられていた。小さな雪の体に点滴の針が刺さっているのを見た時は、再び涙が出そうになったが、ぐっと我慢をした。

だってどう考えても辛いのは雪で、痛いのも雪だ。わたしではない。でもその全ての痛みを代わりに請け負う事は出来ない。獣医じゃないから、治療も出来ない。わたしに出来る事は何ひとつなかったのが悔しかった。



宣言通り、西城さんは一緒に雪の様子を見に行ってくれた。

「おぉ、こいつ俺の姿が分かるみたいだ!さいじょーさんこんにちはって今言ったみたいだぞ?!」などと冗談めかして言って、とてもわたしに気を使ってくれるのが分かる。まさかこの男に、ここまで気を使われるなんて夢にも思わなかった。

不覚だ。不覚すぎる。


この男の前で何度も泣いてしまうとは、終いには抱きしめられる始末。

何をやっていると言うのだ。これじゃあ、この悪魔のような男に助けられ、慰められ、優しくされて、ほだされてしまっているではないか。

もっと気を強く待たなくては。弱みを握られた気がしてならない。



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