【完】淡い雪 キミと僕と
しかし可愛くない子猫はよたよたと足元もおぼつかないのに、一生懸命こちらへゆっくりと歩いてくる。
力いっぱい、ミャーと鳴き続けてわたしの足元でカリカリと何かをしている。
「抱っこしてほしいんだろうが」
お前に言われたくない!
無論、よたよた歩きの子猫を蹴り飛ばすわけにもいかずに、ゆっくりと両手で抱き上げた。
そしたらその子猫はわたしへ向かって「ミャー」と高い声を上げた。口角をつり上げる、その顔が何故か笑っているようにも見えたのだ。
「今、笑った?!」
「バカか、猫が笑うかよ」
「違うんだって!絶対今わたしに向かって笑ったの。
ミャーって鳴いた時」
「そりゃアンタの顔が面白ろすぎて、笑わないはずの猫も堪えきれなくなったのかもよ?」
相変わらず口の減らない男だ。
そのお口を針と糸で縫ってあげたい程だ。
相変わらずミャーミャとか細くも力強く鳴き続ける子猫は、西城さんのお腹の上でごろりと転がったように、わたしのお腹の上でもごろりと転がり上目遣いで小さな両手をこちらへ差し出す。
指で触ったら、嬉しそうにじゃれついた。
ゴロゴロと喉を鳴らすさまは、全く疑いのない純粋さそのもので、人差し指を右へ左へずらすとまた笑ったかのような顔をして、楽しそうに遊ぶ。
…簡単に人を信じるんじゃないよ。
わたしはアンタよりずっと大きい人間で、この手のひらでぎゅーっと力強く押してしまえば、この小さなお尻で踏みつぶしてしまえば
あっという間にアンタの命なんて奪ってしまえるんだから。
なのに子猫は無防備にお腹の上でコロコロと転がって、そしていつの間にか眠ってしまった。