【完】淡い雪 キミと僕と

「何だ、それ」

「アンタが泣きそうだから、抱きしめてやるって言ってるのよ。
でもわたしはアンタみたいにお金持ちじゃないから、1回抱きしめ100円ねッ」

冗談で言ったつもりだった。

気持ち悪ぃと悪態をついて、彼は笑い飛ばすだろう。彼が本当の笑顔で笑ってくれるというのであれば、今は自分が受ける屈辱などはどうでもいい。

けれど彼は財布から100円取り出して、ポイっとわたしの膝の上に置き、そしてわたしの肩へ顔を寄りかからせた。ずしりとした重みを感じたと同時に、雪が鳴き声を上げた。

「とても心地が良い、100円とは、安い…」

「な、なにを………」

何をしていやがる、と言いかけて、彼の小さな吐息が漏れるのが分かって止めた。

トクン、トクン、と鼓動が時間を刻んでいく。僅かな温もりが肩を包み込み、彼の匂いがほんの少し鼻を掠める。

…悪くはない。彼の言葉を借りるとすればそれがよく当てはまる。

でも勘違いなんかしないでよね?

雪は愛情が故、無料で抱きしめてあげるけれど、アンタは1回100円。そこに金銭が発生する以上、特別な感情はないという事を、肝に銘じておきなさいよ?


< 150 / 614 >

この作品をシェア

pagetop