【完】淡い雪 キミと僕と
5.大輝『本音じゃなかったんだ…』
5.大輝『本音じゃなかったんだ…』
何であんな深い話をしてしまったのだろう。
琴子にも、言えずにいた話の続き。誰にも言った事が無かった。
どこか遠くへ、鍵を閉めるように、閉じ込めておいた過去。
だって思い出してしまったんだ。子供のように泣き叫ぶ美麗が、ボロボロの顔を向けて脇目も振らずに、’死ぬの?!死んじゃうの?!’と言った。あれは幼き頃の自分だ。
そして、雪を愛おしそうに抱き上げて、’雪は特別なんかじゃなくっていい、選ばれた猫なんかじゃなくっていい’と言ったあの言葉は、幼き頃に俺の手を引いてくれた、優しき笑顔を持っていた祖母の顔だった。
全く俺らしくもない。
何をあんな小娘の胸の中で安堵の時間を過ごしてしまったというのだ。今にして考えてみれば、100円は高いだろう。小銭を払うのさえ惜しいくらいは、小さな胸だったな…。
何て言ってしまえば殴られる未来は目に見えているので、あの100円は勉強代という事にしといてやろう。
それにしても雪は可愛い。美麗とは大違いだ。
雪は2週間ほど動物病院に養子に貰われ、そして驚く程元気になって帰って来た。
猫の成長とは早い物で、すっかりと精悍な顔つきになっていた、かのように思う。親馬鹿か?いや、あいつは本当に猫にしては整っている方なのだ。大きな耳も目も、白目が青い所も、白い毛に不思議な模様がある所も、可愛い所を上げだせばキリが無い。
琴子の飼っていた琴音猫はちっとも可愛げのない猫だった。俺の顔を見て目つき悪く’フーシャー’威嚇してきて、可愛らしさの欠片もない。
偉そうに長い毛を振り回し優雅に歩きながら、ツーンと顔を背けた。アレは雪とは全く違う生きなのだ。