【完】淡い雪 キミと僕と
「何だお前、人んち来たかと思えばニヤニヤして携帯を眺めて
本当に気持ちが悪い」
隼人が口を開くのと同時に、ゲージの中に入れられた4匹の犬が鳴く。
キャンキャン、ギャンギャン、耳障りったらありやしない。雪はもっとソプラノの綺麗な声でゆっくりと鳴くぞ?!見習え、馬鹿犬どもが。
4匹同時に鳴くもんだから、うるさいったら無い。
下手糞なロックバンドのライブにでも来ている気分だ。非常に気分が悪い。そして、その中でもひと際大きな声で鳴くのは、この俺がわざわざ病院まで連れて行き、開腹手術にまで付き合ってやったチワワだった。
お前、命の恩人にはなぁ?もっと礼儀を身に着けろ。
4匹の犬は全て小型犬だった。
チワワ、ダックスフンド、ポメラニアン、トイプードルか…。揃いも揃って趣味の悪い犬を揃えているところが隼人らしいっちゃらしい。
しかし臭くてたまらん。
ゲージで暴れ回る犬たちからは、獣臭というのだろうか、鼻をつんざくような独特な匂いがした。
雪は違うんだ。雪はとても良い匂いがする。お日様と猫の匂いが混じり合っていて、いつまでも嗅いでいたくなるような匂い。癖になる匂いなのだ。
それを隼人に言えば、鼻で笑われた。
「それは猫が良い匂いというより、おめぇがその猫を好きだから良い匂いに感じるだけじゃねぇか。
あばたもえくぼとはよく言ったものだ」
「いや、そういう問題ではない。隼人も見れば分かる。本当に雪は可愛いんだ」
そう言って隼人に見せた携帯の中にある動画には、美麗と猫じゃらしで遊ぶ雪の姿。
まだよたよたしてはいるが、頑張って遊んでいる。そんな成長には目を見張るものがあった。
動画の中、’雪すごい!雪天才!’と黄色い声を上げる美麗の声が入っていた。…しかしデカい声だ。美麗の声が邪魔をして、雪の美しいソプラノ音は聴こえやしない。