【完】淡い雪 キミと僕と
「今聴こえたか?!」
「なにがだよ」
「さいじょーさんが1番すきだよーって雪が言った」
「大丈夫か?お前頭がおかしくなったか?
それより美麗ちゃんは実際見る方がずっといいな?スッピンであれだけ美しい女も中々いない。俺の店で働いたら絶対にナンバー1だよー」
「阿保か、お前、あいつにそんな事を言ったらぶっ殺すぞ?」
ブルっとわざとらしく身を震わせ、怖い怖いと全然怖くなさそうに隼人が言う。
だから何でお前はここにいるんだよ?お前のせいで美麗には怒られるし、美麗のスッピンは見られちまうし…まぁそれは俺に全く持って関係はないがな?
数10分後化粧を終え、着替えた彼女はリビングへやってきた。
張り付けられた美しい笑みを浮かべ。げぇ、気持ち悪。そんな顔をしていたら気づかれたのか、鋭い眼光で睨みつけられた。
「ごめんなさい、何か…恥ずかしい姿を見せてしまって」
「いえいえ、僕の方こそ突然来てしまってスイマセン。
大輝くんとは学生時代からの旧友で、今でも仲良くさせてもらっていまして、猫を飼ったと聞いて、実は僕も無類の動物好きなもので
あ、ご挨拶が遅れました。五十嵐隼人と申します。」
なぁーにが’僕’だ。一気に体中に鳥肌が広がって行ったぞ?
隼人は名刺を取り出し美麗に渡すと、それを手にした彼女の瞳がキラキラと輝きだすのを見逃さなかった。
勿論隼人の名刺は、デリヘル店店長の名刺ではない。架空の会社があるのだ。こういった世界の経営者は、内情は空っぽの会社ではあるが、そこの肩書には偉そうに代表取締役と書かれているんだろう。
美麗は馬鹿だから、直ぐに肩書に騙される。
つーかありえんだろ?こんな強面の、ピアス開いちゃって、髪も長くて髭面のいかにも怪しい男が、普通の会社の社長な訳がねぇだろ。
それでもその名刺を宝物のように両手で握りしめて「すごいんですね、若いのにッ」といつもより1オクターブ高い声を出して、媚を売る。
…やっぱこいつ苦手だわー。