【完】淡い雪 キミと僕と

６．美麗『馬鹿な男ね……』

６．美麗『馬鹿な男ね……』




あなたに言われなくても、分かっているわよ。

わたしは、尻軽ではないけれど…港区で男漁りをしていた、馬鹿女。美味しい食事をご馳走になったり、高額のプレゼントだって貰っていた。それにわたし程度の女なら、確かにその辺にゴロゴロと転がっている。

そんなの、あなたに言われなくたって痛い程身に染みている。だからって、あの言い方はないでしょう？


鍵をしめて、チェーンまでかけた。

冷たく閉ざされた扉を見て、雪は寂しそうに「ミャー」と鳴いた。カリカリと爪を立てて、人の気配がなくなったと分かると、しょんぼりとした顔をして、こちらへやってきて、足元にすり寄る。



名刺には、五十嵐隼人と書かれていた。

人材派遣会社の社長らしい。

強面で、風貌的に普通の人には思えなかったけど、丁寧な言葉遣いに柔らかい物腰。話してみると、怖いという感情はすっかり頭からなくなっていって

何よりも西城さんの友人だというから、素っ気ない態度なんて出来ないじゃない。嫌な態度を取って、西城さんの顔を潰すような真似、出来なかったから。

彼の口から紡がれる言葉が社交辞令の類だって事は理解していた。

その上で大人の対応をしただけじゃないか。それなのにだ、あの男と来たら何を言い出すかと思えば、尻軽だとか、馬鹿女だとか、いつもの調子で散々人を罵って、恥をかかせた。

こっちはアンタの顔を立てようとしたというのに！感情が高ぶって泣いてしまうなんて不覚だわ。

わたしときたらあいつの前で泣きっぱなしではないか。

あの男の悪魔のような口の悪さには慣れていたというのに。