【完】淡い雪 キミと僕と
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『会社に来ていたようですが、井上さんとはどういった関係で?』
『アンタには関係のない話だ』
『いえ、関係あります。私はあの人がとても好きなのだから』
『ほう、アンタはあの特徴もない冴えないでくの坊が好きなのか。
意外だな』
『井上さんは素敵な人です』
『そうか?あんな奴どこにでもいるような男だが俺の方がよっぽど良い男だがな』
『自分で言っていて恥ずかしくないですか?
少なくとも、井上さんはあなたより全然素敵な人です。あの人の素敵さが分からないなんて可哀想な人だわ』
『クソ女』
どういった繋がりかなんて分からなかった。けれど、彼は井上さんに会いに、わざわざうちの会社まで出向いた。
そして西城さんと話している時の井上さんの顔はとても苦しそうで、今までに見せた事のないような歪な顔をしていた。
クリスマスにあんな酷い振られ方をしたというのに、わたしはまだ井上さんの事が諦めきれずに、未練たらたらだった。
友達としてでいいから、近くにいたい。
諦められない気持ちだというのならば、諦められるまで好きでいる。それって許されない事だったんでしょうか。
どうしたら彼に好きになってもらえるのだろうか。
どうしたら彼の好きだという女の子みたいになれるのだろうか。見たこともない、井上さんの好きな人の事を想像しては悶々とした日々を送っていた。
きっと彼の好きになった人ならば、とても素敵な人に違いない。きっとその人はわたしよりもずっと背が高いモデルのような人で、綺麗だというのに心まで広くて、純粋な人なのだろう。まだ見もしない女を想い、嫉妬ばかりしていた。
井上さんは好きな人は’月のような人’だと言った。
なんてロマンチストな言い回しをする人だろう。
月は毎夜私たちの頭上を照らして、静かではあっても、穏やかな光りを放ち、見えない足元を照らしてくれる。そんな風に井上さんに想われる女性が羨ましかった。
心の底から羨ましかった。