【完】淡い雪 キミと僕と
その飲み会は和やかな雰囲気だったと思う。
同期が集まった、小ぢんまりとした新年会。
けれどお酒に酔っぱらった早瀬さんが、井上さんに絡みにいって、あれよこれよという内に彼はブチ切れた。
早瀬さんに馬乗りになって殴り掛かる。こんな風に彼が人に怒る所を見るのは初めてで、思わず悲鳴を上げると、周りにいた人たちがその喧嘩を止めに入った。
悔しそうな、でもどこか怒りに満ちた表情。あの穏やかな人が、こんな顔をするなんて。わたしだって、井上さんの事をちっとも知らなかったのだ。
わたしと、彼と仲の良い佐伯さんでお店から一旦出て、深夜までやっている喫茶店で彼を落ち着かせた。その頃にはすっかりといつもの穏やかな彼に戻っていた。わたしと佐伯さんに申し訳なさそうに頭を下げる。
その時だった。偶然にも西城さんに会ってしまったのは。
相も変わらずに嫌な男だわ。いつ会っても、偉そうで、傲慢で嫌な男。彼は井上さんに用があると言わんばかりに、わたし達の間に割って入る。
けれど、自分の中でその日、絡み合ってた複雑な糸が1本に繋がるような不思議な感覚に陥った。
早瀬さんと喧嘩をした井上さん。佐伯さんの話。そして偶然に会った西城さんの話、全部繋ぎ合わせて、やっと腑に落ちたのだ。
彼の好きな人。
それは奇しくも、井上さんと初めて連絡先を交換した合コンで、その時も佐伯さんは目の敵にしている井上さんに絡みにいって、それは傍から見ていても深いな程だったけれど、わたしはいつも通り笑って話を流していた。
けれどもその合コンに参加していた、背がとても小さくて金髪の女の子が井上さんの悪口を並べる佐伯さんに切れて、今にも殴り掛かりそうだったのだ。
そしてその時、井上さんはその女の子の手を取り合コン会場から、風のように消えた。
その女の子の名前さえ憶えていない。えらく場違いな派手な2人組が来ているなぁと思った程度で。