【完】淡い雪 キミと僕と

わたしの知らない所で始まっていた井上さんの恋物語。

でもその恋の相手はわたしの想像していた女性とはかけ離れていた。

記憶を辿るのならば、特別可愛くもなくて、いたって普通。それどころかあの佐伯さんの話しぶりから夜の仕事をしている女性で、髪もメイクも派手で、わたしとも井上さんとも全く違う世界を生きているような子だった。


だけどたったひとつ、確かな事があるとするのならば、あの日合コンで佐伯さんの理不尽な攻撃を受けている井上さんをボーっと眺めているのがわたしで、それを自分の事のように怒り、庇っていたのは、彼女だった。

そこが分かれ道だったのだとすれば、わたしは自分の体裁を気にせずに人を守れるような清い女性ではない。

そしてその分かれ道こそが、ヒロインになれる者と、ただの脇役の悪役にしかなれない人物との差なのだろう。


その夜も、西城さんとメッセージの交換をした。

『何ですか、あの態度は。本当にあなたは嫌な男ですね。こうやってメッセージのやり取りもしているというのに、知らん顔して久しぶりみたいな態度を取って』

『いや、あれはアンタの為を思ってしたまでだが?俺と仲良くメッセージのやり取りなんてしてるのが井上晴人にバレでもしたら、何か誤解が生まれてしまうのではないかと思い、親切でしたまでだけど?』



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