【完】淡い雪 キミと僕と
惨めな恋物語を思い出し、ため息が止まらない。
仕事を定時に終えて、いつもと違った路線の電車に乗り、実家へ向かう。
それにしても暑いわ…。
夜になるっていうのに、モワッとした息が上手く吸えない感覚。東京は人が多すぎる。それでもこの暑さの原因のひとつだろう。歩くだけで肩がぶつかりそうになる交差点で、人を避けて歩く。
満員電車は、更に最悪だ。人が密集している上に匂いがこもり、吐き気がこみ上げてくる。どこから人がここまで集まってきて、どこへ帰っていくというのだろうか。
冷房の効かない車内の中で、下を向いてただただ時間が過ぎゆくのを待った。
実家に着くころにはへとへとになっていた。しかし、これからマンションまで帰らないといけないのだ。それはそれでもう地獄だ。
「ただいまぁ~…」
会社から実家に帰るのは久しぶりの事。
玄関まで、ママの作る夕ご飯の良い匂いが漂ってきて、ぐぅと小さくお腹が鳴る。…雪が、玄関まで迎えに来てくれる気配はない。
それもそのはず、ママはキッチンで料理をしていて、仕事を終えたパパが雪と一緒に持ち込んだ猫じゃらしで遊んでいた。
雪は猫じゃらしに目を輝かせていて、こちらなんて見向きもしない。いや、パパに懐いてくれる柔軟性は嬉しいのだが、ちょっと寂しいじゃないのよ。
「おお、美麗。おかえり」パパがそう言ってようやく猫じゃらしをソファーに上に置いたから、雪はやっとわたしに気づきダッシュで走ってきた。
「みゃあーーーー」いつもよりも長い鳴き声。まるで’忘れてたわけじゃないんだからー’と言っているように聴こえた。やっぱり憎めない猫だわ。
雪を抱き上げたら、嬉しそうに目を閉じて、顔をすり寄せてくる。
これだから、たとえ誰に懐いていたとしても、やっぱり自分が1番だって思ってしまうじゃないの。このッ小悪魔め。