【完】淡い雪 キミと僕と

獣医に促されるままに手に取ってしまったが最後。

手のひらで収まるような小さな体が、俺に必死に掴みかかってきて、そして必死に鳴き続ける。
このまま鳴き続けたら声が出なくなってしまうのでは?と心配するほどに必死に何かを訴えかけてきたかのように、俺には見えた。

そして事もあろうことか、子猫は俺の手の中で小便を漏らした。
それは手を伝い、俺のスーツ、そして段ボールの隅に置いてあったブランドの財布にまで被害は及んだ。


それでも手の中で何かを必死に訴えかける猫から

’僕です僕です’
’生きたいです生きたいです’
’愛して下さい愛して下さい’

聴こえた気がしたんだ。その小さくとも、ハッキリ開いた瞳から。


他の兄弟猫の貰い手はすぐに見つかると思った。

こいつよりかは元気はあったし、こいつよりかは大きかった。見た目もずっと愛らしくて
どうしても誰からも選び取られない、小さくみすぼらしい子猫と自分を重ねて見てしまった。

獣医に基本的な子猫の飼い方と、必要最低限の物を聞いて、俺はその足でこのみすぼらしい子猫を引き取ってしまったのだ。

今にしても自分の取った行動を自分自身が1番驚いている。


引き取ってからすぐに後悔した。

俺に子猫が育てられるとは思えねぇ。
いっそのこと隼人に押し付けるか、と思い返して見て奴のうちには今日病院に連れてきた馬鹿犬の他に3、4匹いると気づく。

適当に遊んでいる馬鹿女に押し付けようかとも思ったけれども、生憎ながら女は信用ならない。

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