【完】淡い雪 キミと僕と
「アンタ…わたしが居ない間にコッソリと靴のサイズを見たわね…?気味の悪い男だわ」
「失礼な。アンタの臭い靴になど触れないだろう、普通。手が腐ってしまうかもしれないじゃないか」
「だから、臭くないっつの!」
「心配しなくて良い。靴磨きと共に消臭スプレーも買ってきた」
「そういう問題じゃなくって!」
全く、もう。こいつと一緒にいると調子が狂いっぱなしだわ。馬鹿らしくて、笑いがこみ上げてくるほど。
不思議なものね、あんなに怒っていたというのに、それは別にあなたのお陰とかそういった類のものではないので勘違いはしないで欲しいのだけど、あなたの暴言を許した、と言う訳ではないのよ?
ぴたりと自分の足にフィットするこの靴がとても履き心地の良い物ならば、人は誰だって機嫌が良くなるものなのよ。
わたしはシンデレラストーリ、ヒロインになれないような女だ。
きっとガラスの靴はこんな心の汚いヒロイン拒むに違いない。
悪役がお似合いのわたしに民意は眉をひそめる。それどころか嫌われっぱなしの、当て馬的な立場が相応しい。
ヒロインに相応しいのは、千田ちゃんや、西城さんや井上さんから愛されるあの女性のような心が綺麗な人間だ。
わたしは、ガラスの靴に選ばれなかった女。
けれどあなたはぴったりの靴を用意してくれたの。
だから、どれだけボロボロで惨めで、ヒロインになれない自分に気づいてしまったとしても、わたしだけは絶対にわたしを見捨てない。
わたしにだけしか紡げないストーリーの中で、例えヒロインに相応しくない人間であったとしても、物語の主役は自分だ。
彼と同じ物語、生きれなくても、違う物語紡いでいく事はきっと出来る。