【完】淡い雪 キミと僕と
さっきまで経営者の顔をしていた篠崎さんからちらりと父親の顔が覗く。
菫は、照れくさそうに、篠崎さんの肩を叩き、再びこちらへ目線を合わせ、花のような笑顔を咲かせた。
菫という名は彼女にぴったりだった。
「でも本当なんです。雑誌でお見掛けしてからとても素敵な人だなぁって。
実際に会ってみると、もっと素敵で驚きましたけど」
彼女の言葉に、曖昧に微笑った。
気分はとても最悪だった。
その日のパーティーは終わるまで張り付いた笑顔が取れないような最低に居心地の悪い日だった。
「大輝くんったら、突然来てなによ。
全然相手してくれる様子もないし、一体なんだって言うのよ」
パーティーを終え、疲れていた。
酷く、疲れたもんだ。作り笑いばかりしていて、表情筋は固まり強張って、変な形になってはいないものかと心配したもんだ。
その夜、俺は友理奈のマンションを訪れた。
美麗の家に行って、雪に会うという手もあったが、今日は猫を抱くよりも、無性に女を抱きたい気分に駆られたからだ。
友理奈は文句を言いながらも、俺を受け入れて、それは一瞬の快楽に過ぎなかったけれど、ぐちゃぐちゃにされた気分は少しだけ落ち着いたような気がする。
こんな気分の日に美麗の家に行ってしまい、うっかり彼女を抱いてしまったらそれこそ大事故だ。
最近前以上におかしい俺は、うっかり彼女を抱きかねないのだ。そう考えれば、友理奈のような女は非常に便利だ。
友理奈は俺に、必要以上の期待を向けない。馬鹿だけど計算高いずる賢い所がある女だ。そして俺は決まって、遊びでそういう女を抱くのだ。
間違っても女は、俺と結婚出来るとか、付き合えるとか夢物語を抱いちゃいない。それは、ひと時のお伽話のような儚い遊びに過ぎない。