【完】淡い雪 キミと僕と
「おう、おはようさん」
猫を預けた翌日朝7時俺は車を走らせて美麗の家に行った。
髪をボサボサに振り乱したスッピンの女がその姿とは不似合いな可愛らしい花柄のパジャマでお出迎えしてくれた。それはそれは迷惑そうに。
「おはようじゃないっつーのよ。
こっちは寝不足で仕方がなかったんだから。
ミルク1日8回って何よ。お陰で夜中に起きる羽目になって、それから全然眠れなかったんだから」
「それはお疲れさん。で、猫の状態は?」
「元気そうにミルクも飲んでたし、ミャーミャーすっごいうるさいっての。
人が離れようとしたらよたよたになりながらついてくるもんだから、1日中ぴったりくっついてる羽目になったんだからね?!」
「そりゃ仲良さそうでご苦労さん。
後で合鍵を作っておくから、鍵は置いてってな?」
「だから何でアンタに合鍵を作られなきゃいけないわけ?!
うら若き女性の一人暮らしの家で何かしようってんなら、許さないんだから」
「うら若き…?
アンタがか?」
訝し気に美麗の顔を覗き込むと、こちらをきつい瞳で睨みつけてぷいっと顔を背けて
ドンドンと足音を立てて部屋の中に入って行った。
やれやれ、何と言うか怒りっぽいというか、時たまこの女が元ヤンなのではないかと思う。
この女とは不思議な縁で繋がれていると勝手に思っている。それは運命めいたとかロマンチックなものでは断じてない。
そしてこれから先もこの女とどうにかなったりとかは絶対に無い。誓って言える。
けれどもバラバラに縺れ合った糸の先に何となくこの女はいつでも俺の近くにいて、切ろうとしても切れないのには運命とは決して言えないロマンチックではない事情があった。