【完】淡い雪 キミと僕と
「お母さんにはこの間唐揚げとサラダをご馳走になったお礼も伝えておきたかったんだ。
これ、貰いものだが…芦屋では有名な焼き菓子店のお菓子らしい」
「だから、お菓子らしい。じゃないっての!
こんな時間に実家を訪ねてくるなんて、あらぬ誤解を与えてしまうものなのよッ。
いいから出て行って、大急ぎで雪を連れて家を出るから、アンタは取り合えず出て行ってよッ」
邪険に扱われ、ついつい眉をしかめる。
しかし美麗の願い空しく、時すでに遅し。
「あらあら~?美麗ちゃんのお友達だったの~?」と花柄のピンクのエプロンをつけた、よく太っ…、いやふくよかな、噂の子豚のお母さんが現れた。
俺の姿を確認すると大きな目をぱちくりさせて「あらあら、あらあら、」と繰り返し、美麗と俺を交互に見て、ニヤニヤと嬉しそうに笑った。
その母親の姿を見て、美麗は頭を大きく抱えた。
美麗によく似ている、ぱっちりとした目と笑うと目尻に皺が重なって、とても優しい顔になる。まるでテレビから飛び出してきたような、日本の典型的な元気いっぱいの優しそうな母親だった。
「初めまして、西城大輝と申します。いつも美麗さんにはお世話になっております。
これ、もしよろしかったら皆さんで召し上がって下さい」
「あらあらこれはこれはご丁寧に。ありがとうねぇ。美麗の母親です。
あっらぁー!このお菓子、芦屋で有名なッ。この間ワイドショーで見たところなの、カラフルなマドレーヌが沢山入ってて美味しそうだなぁって思っていたところなのよぉ~
嬉しいわぁ~。ありがとうね、どうぞどうぞ、汚い家ですが上がってくださいねぇ~」
高音が心地良く、よく話す人だ。
スリッパを床に並べてくれ、「上がれ」と促す。その様子を見て美麗は「止めてよ、ママ」と引き止めたが、母親の暴走は止まらなかった。