【完】淡い雪 キミと僕と
頭が痛いとは正にこういう事だ。どこに他人さまの子供の話を延々と聞いて楽しい人がいるのだろう。
けれど、張本人である西城さんは、どこか楽し気にふたりの話に耳を傾けている。雪はアルバムがめくられるたびに楽しそうにじゃれついていた。
両親が解放してくれたのは1時間ほど過ぎた時だった。
あれもこれも、とわたしに持たせるママ。タッパーに詰めたお惣菜の数々たち。多すぎるってば!と言ったら、大輝くんと一緒に食べなさいと言う。だから絶対に何か誤解していると言うのだ。
「今日はありがとうございました。こんな夜遅くまでお邪魔してしまい申し訳ないです。
ご飯もとても美味しかったです。ご馳走様です」
「いいえぇ、こちらこそ丁寧にお土産までありがとうねぇ。
またいつでも遊びに来て頂戴。大輝くんの好きな物作るからね?」
「アハハ、ありがとうございます。楽しみです」
「それと、美麗の事をよろしくお願いします」
―だから、誤解だと言うのよ!こういう事になってしまうから、嫌だと言ったのだ。
わたしが男性を家に連れてくるのが初めてなもんだから、パパもママも完全に誤解してしまっているじゃないか。
あくまでも、あなたとわたしは他人。雪の飼い主と、預かり主。それ以上でもそれ以下でもない筈なのに…。
「こちらこそよろしくお願いします」なんて彼が調子良く言ってしまうもんだから、ママはすっかり誤解している。パパもパパで、一足先に外に出て、駐車場に止まっている西城さんの車を感心しながら見ていて、外から「大輝くーん」なんて彼の名を呼ぶ。
珍しい高級車に興奮しているのであろう。
庶民にはとてもじゃないけど手が出せない車だ。外観を見つめながら話し込むふたりの後ろ姿を見て、ため息は止まらない。
ふたりを見つめ、ママがニヤけた顔をしてわたしの肩をツンツンと叩いた。…ため息が更に止まらない。