【完】淡い雪 キミと僕と
小さき頃から、物理的な願いは全て叶えられた。
サッカー選手にはなれなかったけれどいくらでもサッカー関係の物は与えられたし
パイロットにもなれなかったけれど、飛行機の玩具は好きなだけ買ってもらえた。
欲しいと言えば、幾らでも与えられた。愛情はまた、別として。
小さな頃から勉強もスポーツ出来たし、学校でのカーストだって常にトップで在り続けた。
神童とは正にこの事ねぇ、と母親の友達に言われた時、母親は顔では笑っていたけどちっとも幸せそうじゃなかったのが印象に残っている。
父親は幼い頃から仕事が忙しいとろくに家には寄り付かなかった。別宅があって、そこに愛人を連れ込んでいたのかは定かではないが
母親は対称的でふんわりとしたお嬢様育ちの女性であって、父とは政略結婚のようなものだった。
可愛らしい顔をしていて、心の奥に鬼の仮面を潜む恐ろしい女だった、と記憶している。
俺が心から女を信用出来ないのは、この母親が起因していると思っている。
恵まれた生活の中で
幼き俺はこの母親から日常的に虐待を受けていた。
殴ったり、蹴られたり、時には胸倉を掴まれて、母はそれを躾だと言い張った。
未だに自分でも虐待か、躾の境界線は分からないままでいる。ただただ幼かった俺の中で、恐ろしいという記憶しか刷り込まれてはいない。
こんなにも愛して欲しいのに、こんなにもあなたを愛しているのに。今にして思えば、ガキの戯言だ。大人になればどうにもならない事だって山ほどある。
けれど未だに夢にまで見てしまうのだ。優しい母が、俺を強く強く抱きしめ、愛おしそうに名前を呼んでくれる。そんなどこにでもありふれた光景を…。