【完】淡い雪 キミと僕と
あぁ、やはりか。予想通り。
調子に乗ると、元ヤン時代の武勇伝を話し始めるのはパパの悪い癖で、つまりは自分の若き日の悪行を他人へべらべら話す訳でしょう?とても恥ずかし事だと未だに気づいちゃいないんだから。
パパが得意になって西城さんにその話をしているのを想像すると、再び大きなため息が漏れる。
「とても楽しいぞ。自分には全く縁のない世界の話を聴くのは、そう悪くないよ」
「もぉ~…西城さんがそんな感じだから、パパが調子に乗っちゃうんじゃないのよ…」
雪がひとりでお留守番を出来るようになって、この男との縁もきっぱりと切れてくれると思っていた。その日を心待ちにしていた。
けれど、それどころか両親まで巻き込んで、この男はわたしのテリトリーにずかずかと土足で入ってくるのだ。
そして、自分の中でもそんな彼と過ごす時間が嫌ではない。嫌ではないと感じつつあるのが、嫌なのだ。
このままうっかり楽しい、と思ってしまったら、離れた時に寂しくなってしまうではないか。
人には少なからず’情’というものがある。
人間だって猫だって同じだ。わたしが雪が可愛くて仕方がなくて、もう離れる生活を考えられないように、彼といるのさえも当たり前になりつつある今、ちょっとでも情が沸いてしまったら、どうしたらいいと言うのだろうか。
わたしと彼では、産まれた時から住む世界が違う人間。
今、一緒に居たっていずれは別々の道を歩いていく人間。
わたしはわたしの、彼は彼の、相応しい場所が必ずある。
そう言った場面に直面した時、少しでも情があったら、離れるのを寂しいと思ってしまう。そんなの、嫌だ。西城さんと離れるのが嫌だと言う訳では断じてない。
’寂しい’と思ってしまう気持ちが芽生える事が嫌なのだ。