【完】淡い雪 キミと僕と
7.大輝『何だ?アンタまさか何か期待しているとか?』
7.大輝『何だ?アンタまさか何か期待しているとか?』
3か月というのは何とも早い事だろう。
この間まで桜が咲き誇って、春の訪れを告げてくれていたと思っていたのに、新緑が茂り青々とした夏はあっという間に過ぎ去って、そしてまだまだ暑いけれど、秋の香りが街中に立ち込める。
…もう秋だと?時間が過ぎゆくのを早いと感じたのは、いつぶりだろう。それ位この3か月は濃いもので、今年の夏はいつもに増して暑かった。
「ニャーゴロゴロ、ミャー」
雪がすっかり大きくなったのも、時間の流れを感じる。
大きいとはいえ、まだまだ子猫であるのは間違いないのだが、この間獣医の所に連れて行ったら、’雪ちゃんは成長が早い’と感心したように言われた。
当然だろう?俺の猫だぞ?こいつは気高く美しく、強い猫なのだ。
しかし驚きなのだ。みすぼらしかった雪。兄弟猫の中でも人一倍小さかった母猫に見捨てられた筈の猫。
顔がハッキリとしてきた。白にほんのり茶色の不思議な模様。短毛種の猫らしいが、ピーンと伸びた長い尻尾は立派だし、何より顔が整っている。
絶対だ。あの琴子や井上晴人が飼っていた琴音猫なんかよりかは、よっぽど繊細な顔立ちなのだ。そう言えば、また美麗に’親馬鹿ね’と馬鹿にされるのだろう。
雪は、ゲージの中に入れておいてあげれば、半日程度はひとりでお留守番が出来るようになっていた。だから、俺は必要なくなった。
仕事も忙しくなってきたので丁度良いといえば良かったのだが、それじゃあ寂しすぎるじゃない。だってこいつは俺の猫なんだし。そういう理由をつけて、仕事が終われば美麗の家に毎日のように押し掛けた。
彼女は酷く迷惑そうな顔をし「鍵を返せ!」と何度も言ってくる。けれど決して合鍵は返さなかった。
だって考えても見ろよ。もしも美麗が仕事中に雪になんかあったとして、俺が合鍵を手にしていればいつだって会いに行ってやれる。
断じて、美麗の家の合鍵が欲しい訳でもないのに。あいつは自意識過剰だから、何を勘違いしているのやら。
あくまでも雪のため、それを肝に銘じておけ。