【完】淡い雪 キミと僕と
「この間もこういう事ありましたね、あの時はわたしが床に持っていた紙を落としてしまって」
「そうだったね。今から休憩?」
「ええ、井上さんは?その分じゃあ忙しそうだけど」
「そうなんだ。最近は全然会社にいる機会もなくって、引継ぎとか色々と忙しくって…
ところで猫ちゃんは元気?」
「お陰様でとっても。可愛くて仕方がないの。あの子だけは特別ね。このわたしがまさか猫にベタ惚れになるとは夢にも思わなかったけど」
そう言ったら、井上さんはもっと優しい顔をして笑い、少し照れくさそうに言い出した。
「いつか見に行ってもいいかな?
ひとりでじゃないけれど…」
その顔を見て、直ぐにピンと来た。そしてそれを快く受け入れられる自分にいつの間にかなっていた事は、自分自身でも驚きだ。
「琴子さん、と?」
その名前を出すと、また彼は照れくさそうに微笑んだ。
恋をいつか思い出に出来るというのならば、こういう時だと思う。
少し切ない気持ちはどこかに残っているのは、紛れもない事実。…けれど心のどこかに温かい気持ちが芽生えていくのが分かる。
「山岡さんには報告しておかなきゃいけないって思っていたんだ。
琴子と、付き合う事になった。今、また一緒に暮らしてるんだ」
「それはそれは、琴音ちゃんも大喜びでしょう。…本当に良かった…」
「琴子、山岡さんに会いたがっていた。あいつさ、山岡さんの事すごく褒めるんだ。あの人は真っ直ぐで良い人だって。
だからもう一度…いつか会えた時は友達になれたらいいなって」
「えぇ、いつか…。わたしも又会いたいものだわ」