【完】淡い雪 キミと僕と
’節操がない’そう言われた雪は嬉しそうに彼の手にじゃれついていた。
この子は本当に馬鹿猫かもしれない。けれど、馬鹿な子程可愛いって言うじゃない。
無邪気に西城さんの指にじゃれつく雪を、彼はとても愛おしそうに抱き上げ顔をくっつけ合う。
とても雪が可愛いのだ、と思う。
井上さんに取られたくないと、やきもちを妬いてしまう程にはね。
そこは少しだけいじらしく可愛いではないか。
「おい、飯はまだか、レンジでチンするだけだろーが、のろまかお前」
前言撤回。
レンジでチンをしたお惣菜を乱暴にテーブルに置くと、眉をしかめ、口をへの字に曲げた。
そうして口癖のようにきっと言うのだ。
「もっと女らしくな、アンタときたら」
ほんっと生意気な男なんだから。
雪を床に降ろし、自分もソファーから起き上がり、正座をして’いただきます’と両手を合わせる。
生意気な所もあるけれど、礼儀正しい所もあって、口が悪いが実は優しい。
そういった数々の理由でこの3か月で大嫌いな男から、少しだけ良い奴へ変化していった。何度も言うが…悔しいけれど。
「きんぴらというものはこんな優しい味がするのな」
「そうね。このカボチャの煮物も美味しいわね」
「最高だな。美麗ママは本当に料理上手だ。
あ、ご飯おかわりな」
西城さんは、ママの料理を食べるようになってからよくご飯を食べるようになってくれた。
あんなに小食だったのに。
彼曰く、美麗ママの料理は’特別’だそうだ。
わたしよりも小食だった男。お腹が空いたらその欲求を満たすだけに口運んでいると言い張った男。食事には興味がないと言っていた。
食べる事は生きる事なのよ。だからママの料理を食べる事によって、少しでもこの男がカロリーを摂取し、生きる事のエネルギーに変えてくれるのならばそれはきっと良い事だ。