【完】淡い雪 キミと僕と

「わたしも、料理が出来るようにならなくちゃ」

その言葉に、彼はぴたりと箸を止めた。

「別にアンタに作りたいとかじゃないから?
自分の為に、そして未来の素敵な旦那様の為に、ちょっとくらいは料理出来るようにならなくちゃって意味だから」

「素直さをもっと養った方が良い」

「これがわたしの十分素直な言葉と気持ちよ。
でもそうね、アンタがそんなにわたしの手料理が食べたいと思うのならば、毒見くらいさせてやってもいいわよ?」

「口の減らない女だ」

その言葉は思っているよりずっと優しいトーンで放たれる。

もっともっと嫌な奴だったのならば合鍵を無理やり奪い去り、家に一歩たりともあげやしないんだけど。

わたしたちがご飯を食べている傍らで、雪が一緒にご飯を食べる。最近は更に食欲が旺盛なようで幼き頃の面影はなし。

餌代だってこれからもっとかかるだろう。

それに動物病院にお世話になる事だってあるかもしれない。

自分の給料でも何とかやっていける範囲ではあると思うけれど、細々とした出費は月にしたら中々の物よ?もしも雪が餓死をしてしまったら困るでしょう?

だから、お金を出してくれるあなたを置いてあげているだけ。

お金目当てみたいなもの、きっと。そう自分に強く言い聞かせるのだ。

ご飯を食べている最中も彼の減らず口は止まらなかった。

何気ない会話ばかりだった気もするけれど、彼と罵り合い突っ込みあうのは、そう悪い気分でも無かった。それどころか、そんな時間は少しだけ楽しかった。


ご飯を食べ終えお皿を洗い、時刻は午後8時を過ぎていた。

大体彼はご飯を食べ終えてからも1時間程度家に滞在する。

’いつまでいんのよ’はいつの間にかわたしの口癖になっていて、その日もいつものノリでその言葉を言おうとしていた時だった。


< 263 / 614 >

この作品をシェア

pagetop