【完】淡い雪 キミと僕と
「わたしも、料理が出来るようにならなくちゃ」
その言葉に、彼はぴたりと箸を止めた。
「別にアンタに作りたいとかじゃないから?
自分の為に、そして未来の素敵な旦那様の為に、ちょっとくらいは料理出来るようにならなくちゃって意味だから」
「素直さをもっと養った方が良い」
「これがわたしの十分素直な言葉と気持ちよ。
でもそうね、アンタがそんなにわたしの手料理が食べたいと思うのならば、毒見くらいさせてやってもいいわよ?」
「口の減らない女だ」
その言葉は思っているよりずっと優しいトーンで放たれる。
もっともっと嫌な奴だったのならば合鍵を無理やり奪い去り、家に一歩たりともあげやしないんだけど。
わたしたちがご飯を食べている傍らで、雪が一緒にご飯を食べる。最近は更に食欲が旺盛なようで幼き頃の面影はなし。
餌代だってこれからもっとかかるだろう。
それに動物病院にお世話になる事だってあるかもしれない。
自分の給料でも何とかやっていける範囲ではあると思うけれど、細々とした出費は月にしたら中々の物よ?もしも雪が餓死をしてしまったら困るでしょう?
だから、お金を出してくれるあなたを置いてあげているだけ。
お金目当てみたいなもの、きっと。そう自分に強く言い聞かせるのだ。
ご飯を食べている最中も彼の減らず口は止まらなかった。
何気ない会話ばかりだった気もするけれど、彼と罵り合い突っ込みあうのは、そう悪い気分でも無かった。それどころか、そんな時間は少しだけ楽しかった。
ご飯を食べ終えお皿を洗い、時刻は午後8時を過ぎていた。
大体彼はご飯を食べ終えてからも1時間程度家に滞在する。
’いつまでいんのよ’はいつの間にかわたしの口癖になっていて、その日もいつものノリでその言葉を言おうとしていた時だった。