【完】淡い雪 キミと僕と

「わたしなんて、全然。大学までずっと女子高育ちで、そういった事は余り…
それに学生時代は音楽ばかりやっていたんですよ。」

「あぁ、だからミュージカルに」

「えぇ、ミュージカルとかも好きですけど、コンサートとかもよく行くんです。
ずっとフルートを習ってましたから」

「それはとてもお似合いだ。是非拝見したいものですね」

「本当ですか?今も趣味でやってはいるのですが、発表会とかもあるんですよ。もし良かったら」

「是非」

美味しい料理に、菫の話はまあまあ楽しかった。

よく笑うけど、どこか身のこなしが上品で
儚そうに見えて、芯が強い。張りぼてでない、彼女のどこか自信のある立ち振る舞いは、育った環境によるものだろう。

’また是非お会い出来たら’と。’そして最後に今日はとても楽しかったです。’と丁寧にお礼を言った。今日も彼女の足先はとても美しかった。



しかし疲労感。

この疲労感は何だ。酷く疲れた。美麗の前みたく彼女に毒づく事も出来ず…まぁ毒づく箇所なんてない程の完璧な女性なのだけど。

だらけた態度も勿論取れない。

美麗の前でならば、幾らでもだらしのない自分を見せる事は出来たのに。基本的に女の前ではかっこつけたいのが男の性であり、かっこ悪い所を見せるのは恥ずかしいものだ。凛と立っていたいものだ。

だから、それは美麗に見せる自分が特別な訳ではなく、彼女は俺にとって’女’ではないのだ。

だから、あんなに癒される―のだろうか。

ハッ!癒されるとはそういった意味ではない。絶対に無い。

だって今更美麗の前でかっこつけたとて、彼女の俺への評価は変わらないだろう。


< 272 / 614 >

この作品をシェア

pagetop