【完】淡い雪 キミと僕と

今更なのだ。

琴子と俺の間にあったある程度の事情を知っている彼女の前でかっこつけても無駄な事。

この間、美麗から’琴子と井上晴人が付き合った’と聞いた。

勿論そんな事はとっくに知っていたが。付き合った翌日に琴子から嬉しそうに電話が掛かってきて、両想いだったんだよ!って中学生みたいな事を言いだしてきたから、案外ショックでは無かった。

それどころか、ふたりの幸せを願える自分になっていたのに驚いた。…まぁ井上晴人の事は好きではないが。

だから美麗の口からその話を聞いた時、また泣き出してしまうのではないかと心配したものだ。笑った顔が泣き顔に見える女だから。

しかし美麗の瞳にはひと粒も涙なんかなくって、それどころかどこか嬉しそうにその話をしてきた。

琴子から付き合ったとは聞いていたが、内緒にしていた。
また美麗が傷つくのを見るのが嫌だったから。でもそれは取り越し苦労という奴だったって訳だ。



秋の夜空は、何か切ない。

金木犀の香りがして、真っ黒に塗りつぶされたような夜の空に、切り取られた月、只ひとつ。
通り抜けていく風も少し寒々しくなっていって、季節がひとつ終わりを告げたのだと感じた。俺の恋物語と、共に。

少しの切なさを残し、けれどそれはとても清々しいものだった。

きっとそれは雪がいてくれたから。心の拠り所になってくれたから。

そして悔しいけれど、美麗。君と過ごす時間は、とても楽しいものだった。

大嫌いだった女に、しかも世界で1番苦手な女にこんな事を思う日が来るなんて、自分で自分に1番びっくりだ。



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