【完】淡い雪 キミと僕と
ソファーで目を閉じている、西城さんがいた。スーツ姿のまんま。仕事終わりそのまま来たのだろう。
近づくと小さな寝息が聴こえてきて、お腹で眠っていた雪が目を覚まし嬉しそうな顔をこちらに向けるから、’シッ’と人差し指を鼻のあたりにつけると、雪はゴロゴロと喉を鳴らして、再び彼のお腹の上で丸まった。
疲れている顔だと思った。だからそのまま寝かせておいてあげよう。だから出来るだけ音を立てずに、炒飯を作ろう。
材料は、玉ねぎ、人参、豚肉、卵といったシンプルな物だけ。
一人暮らしを始めた頃買って1度も使っていない花柄のエプロンに袖を通した。
味付けは炒飯の元。なんて便利な物がこの世界にはあるのだろう。初心者なんだから、それくらいは勘弁してよね。
ゆっくーり、それはそれはゆっくーり包丁で野菜をみじん切りにしていく。ママに教えて貰った猫の手で。
しかしこの切るという作業さえまだおぼつかない。取り合えず細かくなっていればいいという事で、ゆっくりと野菜を小さく切っていく。
みじん切りとは呼べないかもしれない。大きい野菜をただただ小さく切り刻んでいく。お肉も一口サイズに切って。
後は卵と野菜と肉をご飯と一緒に炒めれば良いだけ。余裕!その時だった。
「大丈夫か?」
「ヒィ!」
背後に、西城さんの姿。
余りに集中していたせいか、気配にさえ気づけなく思わず肩がビクッと上がってしまう。
後ろをゆっくりと振り向いたら、まじまじと切り刻まれた野菜を見ている彼の姿があった。