【完】淡い雪 キミと僕と
卑屈か?
自分で言ってどうだろうか。
でも実際、西城グループは俺が次期社長じゃなくてもいいのだ。
家族経営であるから、歴代社長がそうだから、座りたくもない椅子を用意されているだけ。
ホテル業界のノウハウは幼き頃から叩きこまれてきた。けれどフロントマンを1から修行しろってタイプの父親でもなかった。むしろ厳しかったのは、祖父の方で
だから、実際のところ誰でも良かったんじゃないかとも思う。
港区で飲み歩いている掃いて捨てるほどいるような女と同じ。俺の代わりなんてきっと掃いて捨てるほどいたのではないかと。
「ふーん。あっそう。まぁわたしには関係のない事だけどね。
それよりアンタさー…ミルクとかやれんの?」
「アンタに出来る事が俺に出来ないわけないだろう?」
「早く死ねばいいのに」
「お前ッ!
たとえこいつが薄汚れた子猫であったとしてもそんな事を口にするのは可哀想すぎる」
「猫じゃねぇよ。アンタがだよ」
「あっそ」
まだ毛もまともに生えそろっていない。
ふわふわとは言い難い、みすぼらしい猫。
母親の愛情など知らないくせに、いっちょ前に母猫を思い出したりする日はあるのだろうか。うれしかったり、幸せな記憶などが実際あるのだろうか。
いつか、’あいつ’が言っていたな。
’猫はうれしかった事しか 覚えていないんだよ!’
本当にそうであるのならば、こいつの中にも育児放棄をした母親の記憶は残らないのだろうか。
それならばそれに越したことはないのだろうけど。
全く、人間もそうだったらいいのにな。