【完】淡い雪 キミと僕と
「わたしとあなた、楽しく旅行をする理由がないわ」
「たまには都会の喧騒から離れてみるのもいいもんだぞ」
「だからーそういう事じゃなくってぇー」
ハーッと大きなため息が思わず漏れてしまう。
計算か天然かと言えば、天然なんだろうけど。
人がドキッとするような言葉を何でもないように吐かれるのは、時たま酷く心が疲れるものよ。
何でも思ってない女にそんな事を言ったら、勘違いされてもおかしくはないのよ?
「何とも思ってない女にそういう事は余り言うべきではないわ」
「何とも思ってない女にこんな事言わねぇよ」
少しだけ怒った風に口をへの字に結ぶ彼に、ため息は止まらない。
’じゃあ、どう思っているっていうのよ。’なんて言葉は絶対に言わない。だってそれを聞くのは、何故かとても怖いわ。
旅行の話はそれで切り上げた。それ以上聞くのは、怖いし、自分でとても痛い事を言ってしまいそうだったからだ。
少しでも自惚れて勘違いした言葉を彼に投げかけてしまって、それを否定され笑われでもしたらそれこそ立ち直れない。
その夜は結局それ以上話をする事もなく、朝方のクレームメールの事も聞けずじまいだった。