【完】淡い雪 キミと僕と
「もう少しいいじゃないか。今日は確か…土曜日の筈だが?
昨日は金曜日だと記憶してる」
「何がもう少しいいのかは分からないけれど、確かに昨日は金曜で今日は土曜だわ」
「つまりは、今日、君は仕事が無い」
「そりゃーそうだけど」
「もう少し寝ていたっていいじゃない」
そういって、彼は後ろからわたしを抱き寄せた。
わたしは男性経験がない。だからこうやって男の人とベッドに寝るのも、幼き頃パパと一緒に寝たくらいで、初めてだ。
誰もがこういった感情を味わうと言うのだろうか?
彼に抱きしめられ、彼の心臓の音が背中で時を刻む。暖かい温もりが体を伝わって、熱が産まれて、そして心臓がキューっと押しつぶされるように切なくなる。
このキューっとする切なさは何なのか。誰にでもなるものなのか。誰とベッドを共にしても起こる現象なのか。
そしてキューっとした後に心にいっぱい温かい気持ちが流れて行く事。 これはまさか…’幸せ’という奴だったりするのかしら。
だってわたしを抱きしめたせいでぎゅうぎゅうになってしまった雪は、西城さんの腕に乗り不服そうにしている。
さっきまであんなに幸せそうにお腹の上に乗っていたのに。
「ちょっと、雪が可哀想じゃない」
「雪には毎日サービスをしてやってるんだから、今日くらいはいいだろう」
「なんの、サービスよ…」
「俺に抱かれるサービス。光栄だろう」
彼が話すたび、耳元に彼の吐息がかかる。それが少しだけくすぐったくって、けれど全然嫌ではないんだ。
ねぇ人の体は不思議な物ね。こうやって抱きしめ合っていれば、幸せな気持ちが溢れ出していく。何故か、誰かに必要とされている気分にもなる。
だから、雪は人のお腹の上に乗って眠るのが好きなのだろうか。