【完】淡い雪 キミと僕と

「美麗……」

不意に呼ばれる名前には、いつまで経っても慣れない。いつもはアンタとかお前とかいう癖に。

「申し訳ない…」

でも次に彼は発した言葉は心が凍り付くような言葉だったの。

「こんな形でアンタを抱いてしまって…。
しかも初めてだったのに…それなのに」

さっきまでの幸せだった気持ちがすり抜けていくように、冷たい風が通り過ぎて行った。

それってわたしを抱いて後悔しているって事?成り行きで抱いてしまったっていう事?ただそこにいた女がわたしだったから、性欲を満たす為に抱いたって事?

そうね。そうよね。こんな関係の中のセックスに気持ちなんてない。何を幸せだ、と夢でも見てしまったんだろう。

彼にとって、こんなのどんな女とでもやってる事。…でもわたしは、彼のセフレのひとりになんてなるつもりはなかった。

抱きしめられて小さくなる身体。彼に見せないように静かに泣いた。

「お詫びに好きな物を何でも買ってやるよ」

何だそれ、それじゃあ援助交際ではないか。それともパパ活か。

セックスしたから美麗ちゃんの好きな物買ってあげるよぉ~ッてか?

気分が悪い。物を買ってあげれば丸く収まると思っている所はもっと気にくわないわ。

「あっそう、じゃあタワーマンション。あ、最上階ね。
それとヴィトンの新作バックと、サンローランのワンピースも欲しい。
ハリーウィンストンのネックレスとぉ~」

「なるほど。了解
早急に用意しよう」

だから~~~了解じゃねっつーの!

金持ちってのはどこかタカが外れてるんだから。

大体どれもこれもわたしなんかには似合いやしないし。


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