【完】淡い雪 キミと僕と
「こら、子猫に当たったらどうするつもりだ」
「えっらそうに!…とにかくわたしは会社に行くので、その辺とか物色したりしないでよ?!
クローゼットとか開けたら殺す」
興味のない女のクローゼットを開けたくらいで殺されたら命が何個あっても足りやしない。
そもそもこいつの部屋とか全く興味がないんだが………。
美麗は着替えて、念を押すように玄関で部屋を物色するなよとしつこい程言ってきた。
それから猫のミルクと猫のトイレと何度も説明して、こいつなりに心配している気持ちは伝わった。
だからこいつに預けたと言っても過言ではないのだ。
この女は港区で遊び回っていた頭が空っぽの馬鹿女。
けれど、心の底では純粋でどうしたって欲望に染まりかけていない所があるのだ。
だからこそ、冴えない一介のサラリーマンなんぞに惚れて、一生懸命になって、傷ついたりなどするんだ。
愛とお金があるのならば、山岡美麗という女はきっと愛を選ぶ女なのだ。
でもそんな事を口に出して言えば「馬鹿じゃないの、お金よ」なんて可愛げのない事を言うに違いない。
だけど、そんな女だからこそ、このみすぼらしい命を簡単に捨てはしない、と信じられたのだ。この女をそういう女だと認識するまで、大分時間がかかってしまったが。