【完】淡い雪 キミと僕と

「大輝さん?」

その時だった、彼を呼ぶ柔らかく甘い声が響いたのは―。

顔を上げたら、彼と共にツーショットで写っていた画像と同じ人。いや、画像で見るよりも生はもっと綺麗な人だ。

着ていたワンピースはブランド物でこの秋の新作だった。

西城さんは立ち上がり、わたしには絶対に見せないであろう爽やかな笑顔を彼女へ見せた。

「菫さん、こんにちは。」

「こんにちは、たまたまお店に仕事で来ていて、大輝さんに似ている人がいるなぁと思ったら」

「今日は’友人’と近くにきたのでたまたま立ち寄って」

’友人’ねぇ。友人でもないけど。かといってそれ以上の関係でもないけれど。

菫さんはこちらへ向かい、微笑みを落とした。容姿から雰囲気まで、どこまでも美しい人だった。

「こんにちは。篠崎菫と申します。一応ノエールで仕事をしています。
今日はわたしのお店に来てくださってありがとうございます。」

「こんにちは…山岡美麗です」

どう考えたって、生粋のお嬢様の前では気後れをしてしまう。

上手に笑顔を作れていたかは分からない。でも精一杯微笑みを作って、受け答えをした。

なんだって偶然会ってしまうものか。働いてる店員って訳でもないのに。しかもよりによって西城さんといる時に。

彼女だって西城さんを婚約者と認識しているのならば、女とふたりでランチをしていて良い気分ではないだろう。けれどわたしへ向ける微笑みは、とても柔らかくそして美しかった。

そしてわたしの目の前にあるお皿へ視線を落とし、嬉しそうな顔をする。


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