【完】淡い雪 キミと僕と
それから
子猫はずっと俺へ引っ付きっぱなしだった。
仕事の邪魔だ、とどかせても、気づけばその小さな足で必死に俺の体へあがってこようとするのだ。
小さな小さな体で、それはそれは健気な物だった。
猫の考えていることなど、全く理解不能。
しかし俺を信じ切り、全てを委ねてくる姿を見ていると、ふと自分の中に芽生えた事のない感情が湧き上がってくる。
少なくともこいつは、俺を色眼鏡では見ない。
西城グループの社長令息とか、お金持ち、とか そう言った肩書きは当たり前だけどこいつにしてみれば関係ないのだ。
ただただ目の前にいる俺を大きな瞳で見つめ、指にじゃれついて、みゃあ、とか細くも強い鳴き声を上げるだけ。
少しだけ笑って見えた。
美麗に馬鹿か、と昨日言ったばかりなのに、何故かこの小さく小汚い猫がこちらを見て微笑んでいるように見えたんだ。
幸せとは何なのか不毛な事を思わず考えてしまった。
西城 大輝 27歳。
生まれた星の下、それがたまたま西城グループの社長令息であっただけの事。
運が良かったと羨む人間などごまんと見てきた。
小さい頃、夢は沢山あった。
でもその夢はどんなに夢見ようと、叶えられないと悟った時から
俺は夢を見なくなった。
自分の力で夢を叶えるまでもなく、安全な道はいつだって用意されていたのだから。誰かの手によって
眠たくって、欠伸が出てしまう程、平坦な道だ。
デコボコ道でも、いばらの道であろうとも、自分で切り開いた道であったのならば、現在ももっと笑えていたのかもしれない。
子供のような屈託のない笑顔で