【完】淡い雪 キミと僕と

それだというのに、あいつは物分かり良い風に、お互い忘れましょうって言い張り、あの夜を無かった事にしようとした。

俺を責める言葉ひとつ投げかけず、処女だった癖に俺を受け入れ、そして事後は何も欲しくないとハッキリと言った。それじゃあ、お前は何故俺に抱かれたんだ、と問いたくなる。

そして俺は、それの何がそこまで気にくわないと言うんだろう。

隼人の言う通り1回やれてラッキー、ではないか。たった一度切り、その日にあった欲望を満たすだけ。そんな風に抱いてきた女は山ほどいた。

そしてそれが望んだ大人の関係だった、筈なんだ。

だから、何がそんなに不満で気にくわないと言うのだろう。

「帰る…。これから仕事があるんだ。忙しい…」

「そりゃ結構。じゃ~な~」

隼人はあっさりとソファーから手をひらひらとさせ、見送る気もないらしく寝そべり携帯を弄り始めた。

チワワは大きな瞳をジーっとこちらへ向け’早く帰れ’と言わんばかりにキャンと吠えた。

「大輝…」

「何だ…?」

「その女が今のお前の1番の怒りの原因だとするのならば。あ、これはあくまでも’仮定’の話だが。
お前はその女が好きなのだ。だから相手から忘れようと言われ、怒っているだけの事。振られた気持ちになって、拗ねているだけだ。
こんなの小学生の算数より簡単なのに、分からないお前はやっぱり馬鹿だ」

俺は小学校の頃から、成績はオール5だった。

だから、隼人の言った戯言など理解に足らん。理解する必要など一切無し。そんな’仮定’の話に、’根拠’は何ひとつ無い。


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