【完】淡い雪 キミと僕と

会議の内容は全く頭に入ってこなかった。

篠崎リゾートとの新しい事業についての会議。 会議を終えた後、祖父はえらくご機嫌で、篠崎社長と他愛のない話をしていた。

父は父でいつものように置物状態で、そして今日の俺は仕事にも精が出ない様で、難しい顔をして会議資料と睨めっこを続けた。

篠崎社長に挨拶を早々と済ませ、逃げるように父と共に社長室に逃げてきた。

「大輝、この資料に目を通しておいてくれ。」

「はい…」

社長室。

実の父と無言で仕事を勧める。

時たま彼はかかってきた電話にそつなく対応をし、ふーと大きなため息を漏らし肩をポキポキと鳴らす。

「あの……」

「なんだ?」

「今度…菫さんが篠崎さんとあなたと4人で食事がしたいと言ってまして」

「ほう」

彼は表情ひとつ崩さず返事をした。

「日程を調整してくれ。早めに言ってくれるのならば私はいつでも構わん」

「そう、ですか…」

祖父はノリノリなのだが、彼は何を考えているのかはさっぱり分からなかった。

昔からそういう人なのだ。眼鏡の奥の瞳は全く動きを見せないから、彼の心の奥底まで曇らせてしまう。

結局は、俺と菫の事など、どうでもいいのだと思う。会社の未来も、察して興味はなし。俺が誰と結婚しようがしまいが、彼の中ではどうでも良い事なんだ。

それは、母も同様か。 それならばこの夫婦は何故俺を産んだと言うのか。…答えは簡単。西城グループの後継者が欲しかっただけ。それだけの為に俺はこの世に存在する。



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