【完】淡い雪 キミと僕と
「大輝は、それでいいのか?」
しかし彼は次に思いもよらぬことを口にした。
その瞳は資料に落としたまんまだったが。
「え?」
「菫さんとの事だ」
「それはどういった事でしょうか…」
「お前は、あのお嬢さんの事が好きなのか?と訊いている」
何にも興味がなく、いつだってひょうひょうとしていて、どこか掴み所のないような男が、こんな言葉を口にするなんて夢にも思わなかった。
’好き’という言葉は、どこか父には不似合いだ。彼もまた、愛のある結婚をしたとは思えない男だからだ。
「好きとか、嫌いとかの問題じゃないでしょう…。俺の結婚は…。
どうせ初めから選ぶ権利がないんだ。会長が言う事ならば、それに従うしかないでしょう。
それは西城グループの未来の為だ」
「大輝、お前は会社の駒ではない」
「は?」
「全て、会長の指示に従い生きる必要はないと、私は言っているのだ。
お前はお前の人生を歩けばいい。お前が好きになった人だと言うのならば、職業も生まれも大した問題ではない。」
きっぱりと言い放った、父の言葉はどこか強かった。
こんな事を考えてくれていたのか?何事にも興味がなさそうな人だった筈なんだが…。
「いや、しかしそれは…西城グループの事を考えると…」
「俺はお前の気持ちを訊いているのだ。西城グループの西城大輝としてではなく、ただの西城大輝として生きろ。
お前が選んだ女性であるというのならば、俺は反対をするつもりはない。それでもまだあの会長が何かを言ってきたと言うのならば、早くくたばれ老いぼれ、と俺から言っておいてやろう。」
早くくたばれ、老いぼれはさすがに無いだろう。
けれど父との会話。そこまで彼が言って何も言い返せずに、そこで会話は途切れた。