【完】淡い雪 キミと僕と
「莉子のバックも可愛いね」
「でしょ~ッ?これね、不動産関係の社長さんに買ってもらったの!」
「へぇ、いいね」
今日のわたしはとてもラフな格好をしていた。会社帰り、着の身着のまま六本木へ訪れた。
どこにでも入っている安いブランドのカットソーとパンツ。それに髪だって後ろで1本に結んでいる。この街に居たら気後れをしてしまうような恰好をしていた。
それでも何故か今は、それが気にならなかった。あの頃は、あんなに身に着けている物に拘っていたというのに。
久しぶりに会った莉子は話が止まらず、どこどこの会社の人と飲んだ、とか、どこどこのお店が素敵だった、なんていつもと変わらぬ話をしていて
それに適当に相槌を打ちながら、ルナを目指した。その会話の途中、美麗に会いたがっている人がいると、さっきのメールと同じ事を言い出し、その相手とは彼女曰く’すっごい人なんだ’らしい。
見当もつかぬまま、ルナの店先に到着した。
白を基調とした美しい外観で、港区で遊んでいれば一度は来たいと思わせるのには十分な程高級感のある門構えだった。
さすが会員制のお店。名前を告げて中に通してもらうと、これまた中身まで素敵。外側は白を基調としていたが、それとは対称的に中はシックな黒で統一されていて、大人な雰囲気だった。
オープンスペースになっているバーには、ガラスケースの中に様々なシャンパンやワインが飾られる。うん。これは女の子ならば絶対に嬉しいお店だ。けれどそんな素敵なお店に足を踏み入れても、昔のようなときめきは全く無かった。
1番高級であろう個室に通されると、そこには数人の男女が所狭しと座り合っていて、その中にはよく知る顔も何人か居た。