【完】淡い雪 キミと僕と
そういえば、あいつはいつだって豪快に笑っているような女だった。
馬鹿で考えなしで自分の欲求にも忠実で、なのに飾る事もせずに
いつだって本当に大切な物を知っていた。例えば、俺や美麗なんかよりはよっぽど。
俺は彼女と出会った頃から、振られっぱなしだった。それでも諦めがつかなかった。
人生で初めて本気で好きになった女性は、風俗嬢だった。
しかしとて、少し前の俺は風俗嬢という体を売る類の女を軽蔑して、軽視していた。金の為に体を売るなど、浅はかな女だと。
けれど彼女は清らかだった。職業として体を売る事を生業に生きているはずなのに、清々しいほど、潔く
人の持っている金や権力などに屈せずに、凛としている女性だった。
事もあろうことか、その彼女が選んだ男は、どこにでもいるような平凡なサラリーマンだった。つまらない男だと、俺は言った。それは多分ただの負け犬の遠吠え。
どこにもいそうで、探しても見つからないような、女。
暫くの間は忘れそうもない。
彼女がその男を忘れる日が来るのならば、10年でも待てると本気で思った。
自分の中でここまで執着する人間がいたのかと、自分で自分にびっくりだ。
彼女もまた愛猫家で、家の住人以外全く懐かない可愛くない雌猫を飼っていた。
猫を飼おうなんて心の片隅にも考えた日はない。
けれどあの日偶然動物病院でこいつと出会ってしまった。
今でも可愛いとは思えない。ちいせぇし、猫というよりかはネズミみたいだし、きたねぇし、臭いし
なのに、俺のお腹の上で必死に愛情という名の思い出を噛みしめているかのように必死にしているこいつを見ると
小さな声を振り絞って’愛して下さい’と言っているように聴こえて仕方がないのだ。
こんな愛のない男に
まさかこの小さな子猫が俺の人生をこれから少しずつ変えていくとは、夢にも思わなかっただろう。