【完】淡い雪 キミと僕と
彼女の前で、莉子は酷く弱気になる。
ここにも見えないピラミッドが存在している。今となってしまえば馬鹿馬鹿しいの一言に尽きるが、わたし達の住む世界には女のランクと言うのがあるらしい。
口ださなくても、男性は容姿でわたし達を品定めし、ランク付けする。 男性だけではない。女性同士にもきっとある。あの子よりは上。あの子には負けてしまうかも…と言った、実に下らないマウントごっこだ。
きっと莉子も自分の存在は、友理奈より下であると認識している。それでも友理奈に媚びを売っておけば、得をするから金魚の糞のようにくっついている。
…全く馬鹿らしい。
とはいえ、数か月前までわたしだってそのひとりにあったのは違いない。友理奈とも、彼女といれば何となくお得かもと思いくっついていた。
「ふたりとも、座りなよ。飲もうッ。
あ、そうそう莉子には話したんだけど、実は美麗に紹介したい人がいて」
「…紹介したい人?」
そう小首を傾げたら、友理奈は少し遠くの男性に向かって「潤くーん」と甘ったるい声で呼ぶ。
すると名前を呼ばれた彼は話していた女性との会話を切り上げ、ゆっくりとこちらへやって来た。
「こんばんは」
少しだけ子供っぽい。わたしより少し年下だろう。
けれど吸い込まれそうな程綺麗な二重瞼だった。笑うと白い歯が覗き、両頬に可愛らしい笑窪が出来る。サラサラの茶色の髪が、彼が動くたびに揺れた。
まだ少し幼さを残した彼だったけれど、一丁前に着ている物や身に着けている腕時計は高そうなブランドの物だった。
だから業界内は胡散臭い人間が多いと言うのだ。この年齢にしてここまでお金を持っているのは、何をしているのか分かったもんじゃない。
ただ彼の’こんばんは’は、他の女性ではなく、わたしたったひとりに向けられた物のように感じた。